はじめに page 1
・我が国の道路は本格的な整備が始まってから半世紀以上が経過し、各時代の
ニーズに対応しながら整備・改善が進められ、社会・経済の活動を支える基盤と
して大きな役割を果たしてきた。
・現在、我が国は、本格的な人口減少、超高齢化社会、厳しい財政制約、国際競
争の激化に加え、地球環境問題や震災を契機としたエネルギー制約等、これま
でにない困難に直面している。更に未曾有の大災害となった東日本大震災で浮
き彫りとなった国土の脆弱性を克服することが求められている。
・これらの課題を克服し我が国の明るい将来を築くため、最も身近で基礎的な社
会交通基盤である道路の今後の政策はどうあるべきか、既存の枠組みにとらわ
れず、柔軟かつ大胆な発想をもって幅広く検討するため、社会資本整備審議会
道路分科会基本政策部会では、2011 年7 月21 日以降計9回にわたり議論を重
ね、一定の結論をここに中間的にとりまとめた。
・議論を通じて本部会で共有された今後の道路政策の転換の視点は、
@「クルマ」主役から、歩行者、自転車などクルマ以外の利用者も含めた
「多様な利用者が安全・安心して共存」できる環境の整備
A利用状況やニーズを的確に把握した上で、適正な利用の徹底や使い方の工
夫により、既存の道路を「賢く使う」視点の重視
B沿道・地域・利用者等の新たなニーズや技術革新による乗り物の進化に対
応した道路の有する機能の再評価、これまでにない価値の醸成・創出など、
「道路の進化」を積極的に模索
C激化する国際競争と本格的な人口減少社会の到来を踏まえ、国土の強化・
再編に向けた道路の「ネットワーク機能を重点的・効率的に強化」
D東日本大震災の教訓を踏まえ、「強くしなやかな国土の形成」に向け、「道
路の役割を再認識」
である。
・この5つの視点を基本としつつ、国民の生活、国家の経済活動を支え、災害時
などいざというときにも機能する道路システムを形成するという道路政策の
基本的な使命を念頭に、今後の道路政策について具体的な施策の提案を行った。
・今後、この中間とりまとめが、我が国の道路行政関係者において、道路政策を
より良い方向に改善する具体的な取り組みに活かされるための指針として活
用されることを強く期待するところである。特に、主要な取組みについては指
標を設定するなどして、進捗状況をモニタリングしつつ、的確な遂行を図るこ
とが望まれる。
・なお、本部会においては、本中間とりまとめに盛り込まれた施策の実現に向け
た方法論やプロセス等について、法制面も含めたより詳細な検討を今後も引き
続き行うこととしている。
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V.今後の道路政策の検討にあたっての基本的な視点 page 6
T.道路政策の現状認識、U.今後の社会経済の展望 を踏まえ、議論を重ね
た結果、今後の道路政策の検討にあたっての基本的な視点は、
以下のとおりである。
<転換の視点>
1.「クルマ1」主役から「多様な利用者の共存」へ
・道路はクルマのためだけのものではない。特に、都市部の一般道路では、
クルマ以外にも、歩行者、自転車、新たなモビリティなど多様な利用者
が通行している。
・近年、都市部を中心に若者のクルマ離れや加齢に伴う免許返納の増加などに
よるクルマを運転できない高齢者の増加などのモータリゼーションの成熟化
に伴い、マイカーに過度に依存しない交通体系の構築や医・職・住の近接し
たまちづくりが求められつつあり、集約型都市構造化に沿った歩行者、自転
車等クルマ以外の利用者が安全・安心して通行できる道路交通環境の整備が
求められている。
・これまでの道路政策では増大する自動車交通への対応を優先せざるを得なか
ったため、クルマ以外の利用者の通行環境については、十分に手が回らなか
った面があるが、クルマの交通の円滑化を主な目的とする幹線道路ネットワ
ークの整備の進展に伴い、今後はクルマ以外の利用者も含め、多様な利用者
が安全・安心して共存できる環境整備を積極的に推進すべきである。
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W.具体的施策の提案 page 10
1.道路の賢い使い方による多様な利用者の共存
(1)多様な利用者が共存する道路空間の形成
<ポイント>
・地域の道路を面的に俯瞰して、道路毎に誰が主役なのかを明確にし、限ら
れた道路空間を有効活用する再配分を推進
・幹線道路については、バイパス等の整備による自動車交通の転換や分散を
行いつつ、車道空間を歩行者・自転車等へ再配分
・生活道路における人優先のエリア作り(歩行者・自転車優先の意識の徹底、
面的速度規制と連携した歩行空間の優先確保)
・「スローな交通」の利便性向上、ユニバーサルデザイン、無電柱化、通学路
の連携を推進
・一定のエリアにおける道路利用に関して、関係機関が一体的な計画を策定・
実施する仕組みを構築
・行政と地域住民との合意形成や地域における様々な意見を学識経験者等が
コーディネートする仕組み
・事故に関するデータや全国の取り組み状況をモニタリングして公表し、地
方公共団体の取り組みを促進
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<今後の方向性> page 11
@道路空間の再配分等による自転車通行空間、歩行空間の形成
・車、歩行者、自転車等の多様な利用者が共存する道路空間を形成するた
め、道路のネットワーク構成を踏まえ、それぞれの道路の役割、位置づ
けを明確にするとともに、地域の道路を面的に俯瞰して、道路毎に誰が
主役なのかを明確にし、限られた道路空間を有効活用する再配分を推進
すべきである。
・都市部の幹線道路については、バイパス等の整備による自動車交通の転
換や分散を行いつつ、車道空間を歩行者・自転車等へ再配分することが
有効な手法であり、バイパス等の整備にあわせて、道路空間の再配分を
一体的に計画し、積極的に実施すべきである。
・また、自転車利用環境の整備にあたっては、自転車道や自転車専用通行
帯といった自転車通行空間整備などのハード対策から交通安全教育、自
転車利用促進方策などのソフト対策まで、幅広い対策を推進すべきであ
る。
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X.施策の進め方についての提案 page 38
1.多様な利用を促進する新たな枠組みの検討
<今後の方向性>
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・その上で、利用者や地域住民等との合意形成の手続きの充実を図るととも
に合意形成された内容が円滑に実施されるために、利用に関する計画の継
続性の担保を目的とした「道路の利用に関する計画(仮称)」の位置づけを
確立する。
・さらに、このような新たな枠組みの検討・取り組みにあたっては、社会実
験等のパイロット的な取り組みも検討すべきである。
・また、広域的な政策課題の解決に向け、地域圏及び全国レベルでの幹線道
路網の戦略を検討すべきである。
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(2)多様な主体との協働 page 40
<ポイント>
・多様な主体との積極的なパートナーシップによる道路サービスの実現(管
理・改善段階におけるNPO等の道路サービスの担い手としての位置付け、
活動に必要な情報提供や民間からの寄付の促進)
・NPO等の柔軟な発想やアイデアの活用や技術的・制度的にチャレンジで
きるような社会実験の導入
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<現状と課題>
・これまで、社会実験、ボランティアサポートプログラム(VSP)、日本風
景街道等において地域住民、NPO等と協働することによって、歩行者・
自転車優先への転換、沿線住民の交流の拡大、観光資源としての「道路」
の発見等、新しい道路の価値やサービスの提供を可能としてきたところで
ある。
・利用者のニーズは多種多様であるが、道路管理者による取り組みだけでは、
十分対応できないものもあり、NPO等の多様な主体とのパートナーシッ
プによる政策運営が求められている。
<今後の方向性>
・今後とも地域住民等との連携を強めるために、住民等との双方向コミュニ
ケーションを行う市民参画プロセスを充実すべきである。
・特に、道路の管理、改善段階において、NPO等を道路サービスの担い手
として位置づけ、道路管理者等と積極的に連携し、TDMの実施等におい
て主体的な道路サービスの提供ができるよう、活動に必要な情報提供や民
間からの寄付の促進等、道路行政としての環境整備を行うべきである。
・また、NPO等の団体からの柔軟な発想やアイデアの活用や、技術的・制
度的にチャレンジできるような社会実験の導入、「道路の利用に関する計画
(仮称)」の活用によるユーザー・異なる道路管理者での合意形成を図るこ
とも重要である。
・併せて、道の駅やSA・PAの既存施設である情報発信機能を有効活用し、
自治体やNPOなどと連携し、地域振興・観光周遊等を促進する取り組み
を行っていく必要がある。
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(4)進化する乗り物への対応 page 47
<ポイント>
・新しいモビリティの実現に向けた技術研究開発
・道路空間の再配分等に際しての公平なモビリティ環境の実現
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<現状と課題>
・超高齢社会の到来に伴い、高齢者が買い物や病院への通院など自立的な日
常生活を行うために、安心して移動するための移動手段の確保が重要であ
る。
・低炭素社会に向けた国際的な潮流や環境負荷に対する国民意識の高まりな
どの影響も受けて、移動体のパーソナル化やコンパクト化に対応するため
に新しいモビリティが開発、実用化が進展してきた。
<今後の方向性>
・新しいモビリティの実用化に向けて、周辺交通との親和性、所有形態や利
用形態など、社会全体で幅広く議論できる場や仕組みを検討するとともに、
関係する分野の技術研究開発の推進について検討すべきである。
・道路空間の再配分や道路の更新の機会を捉えて、パーソナル化やコンパク
ト化されたモビリティについて、歩行者、自転車等と調和する公平なモビ
リティ環境を実現すべきである。
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